2007年08月29日

岡目八目・四声等子には古本が有った筈

中国の古い音韻の枠の一覧表「等韻図」は、最も古く有名な物に、『韻鏡』、それと並ぶ古い同じ内容の物に『七音略』があり、どちらも、『広韻』の内容を一覧表にした物で、内容に文句はないのですが、細かい音の区別をそのまま残しているため、中国人にとっても日本人にとっても、詳し過ぎて不便なので、その後、それを統合した見易い等韻図が作られました。一番有名なのが司馬光の名前に仮託した『切韻指掌図』、同類に『四声等子』。あまり有名でないのに『経史正音切韻指南』が有ります。指掌図・等子・指南、三本とも、p、t、k終止の入声漢字をm、n、ng終止の韻母に対応させる他に、非鼻音終止の開音節韻母にも対応させ、元以後の中国語の都合に合わせているのが日本語に合わないと思う点以外は、まあ簡略で便利な図と思います。その中では『経史正音切韻指南』が日本人にとって有用と思います。指掌図や等子が気に入らないのは、「梗摂」と「曽摂」を統合しているため「兵ヘイ・ヒャウ」と「氷ヘウ・ヒョウ」の区別が出来なくなっているのが気に入らないのです。その点、『経史正音切韻指南』は、「梗摂」と「曽摂」を分立する等、日本人にも過
不足なく節度ある統合がされています。指南のひいきのついでに私の持論を強調しますと、通常の音韻の専門書には、“四声等子が「正宗」で『経史正音切韻指南』はそれを改訂した物であり、十六摂(梗摂、曽摂などの16の韻母の枠)も四声等子が提唱者”と書かれているのですが、私は如何かと思っています。まず、四声等子が梗摂と曽摂を統合するなら、始めから一つの摂とすれば良い筈で、既にそれ以前に十六摂が有ったからこそ、それを統合する事になったのでしょう。また、『四声等子』のページ順は普通の十六摂の順でなく、それなりの理由は有るのですが、順番を前後させています。『経史正音切韻指南』はその点、統合も少なく、摂の順番も昔のままです。これは、私が言い出した訳ではなく、1938年に張世禄氏が『中国音韻学史』(1998年、北京、商務印書館重印)下巻160ページ以後に「実本四声等子」「今本四声等子」「節次…図次不相応」などと早くから指摘し、現存の「今本四声等子」の前に「実本四声等子」が存在した可能性を指摘し、それを改訂したのが『経史正音切韻指南』であると書いているのです。その説が普及しないのは、中国人にと
って梗摂と曽摂の区別の必要性はあまり気にならず、私はそれにこだわる、という温度差があるのでしょう。私の「こだわり」はワザワザ古い事を有難がっている訳ではなく、梗摂と曽摂を分ける方が室町〜桃山時代の謡本の解釈に便利だから愛着とこだわりを持っているだけです。『経史正音切韻指南』は日本で直ぐには手に入れにくい本ですが、『康煕字典』の巻首に『等韻切音指南』と改名され、摂順もまた全然新たに変えられて収められています。順番は変わっていますが梗摂と曽摂を分ける点では『経史正音切韻指南』の特長を保っています。(別の表で、康煕字典の巻首のもう一つの表『字母切韻要法』は口語の発音に基づく新しい体系の物で、『等韻切音指南』の方が『経史正音切韻指南』に基づく中古音を説明した物です)。(猫マーク)
posted by 金春安明 at 21:20| Comment(0) | TrackBack(2) | 能と音韻 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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Excerpt: 音韻学音韻学(おんいんがく)とは歴史的な中国語および漢字|漢字音の音韻変化を研究する学問分野。近代的な学問区分では歴史言語学の一部といえる。歴史的背景宋代・明代を通じ、朱子学を始めとする宋明理学|理学..
Weblog: 中国語で行く
Tracked: 2007-09-11 13:45


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