2007年08月28日

岩波新書『漢字伝来』 中世日本のエウ韻

大島正二著。解り易い、読んでて楽しい、良い本。同じ著者に『漢字と中国人』というのがあり、これも良かった。ただし、『漢字と中国人』210頁の「注音字母」の影印はちょっと変だ。今日台湾で使っている「注音符号」=北京の現行『新華字典』に「漢語ピンイン」と並んで付記してある「注音字母」≒1918年公布の「万v、円周率のパイng、麻垂(マダレ)gn」を含む「老国音注音字母」、そのどれにも見えない変な字母が混在する。この変な注音字母は『蒼ケツ(吉に頁の字)たちの宴』(ちくま学芸文庫・武田雅哉著・売り切れ)と同じ出所だろう。両先生とも北海道大学だから。でも、おかげで中国近代のいろいろな発音記号を目にすることが出来たので細かい文句は言えない。……さて『漢字伝来』に話を戻すと、190ページに「アウ・エウ」として一括して、豪韻の高(カウ)、肴韻の交(漢音カウ・呉音ケウ)、宵韻三等の苗(べウ・メウ)、宵韻四等の焦(セウ)、セウ(草カンムリに粛の字)韻の暁(ケウ)をまとめていて、唐韻、陽韻、清韻などをアウ、ヤウと一括し、東韻などをオウ・ユウ・ヨウとし、登・蒸韻をオウ・ヨウと一括している。これは「字音仮名遣い」の通りで、最も至極なものであるが、「アウ・エウ・ヨウ」の区別が完全に合流して「しょー」となった今日の人が見たら「エウ」を「アウ」の拗音と解して「登・蒸韻」の「オウ・ヨウ」と対立したものと考えるだろう。漢詩の押韻を考えるにはそれが合理的なのだが、室町・桃山・日葡辞書の時代は「アウ・ヤウ」≠「エウ」=「ヨウ」だった。世阿弥自筆能本もその体系のはず。私はかつて「能楽学会」で「定家時代〜世阿弥〜室町〜桃山〜日葡辞書までの発音の枠も、歴史的仮名遣い・字音仮名遣いの発音の枠も、中世の音韻の枠をはみ出ませんので」等と、発表当日のレジュメにチョット手を加えただけの40枚の雑文を「論文」などと称して投稿したのですが、「体裁が未整理」とのことで門前払いの不掲載になりました。不掲載になってかえって良かったかも。なぜなら、「中世の音韻の枠をはみ出ない」どころか、「字音仮名遣いはエウをアウの拗音と解し、定家〜日葡辞書はエウをヨウとひとまとめにし、アウ・ヤウと対立させている」ということが今わかったからには、「字音仮名遣いは中世の音韻の枠と矛盾する」というべきになり、私のかつての言い方は不充分だったということになるからです。猫
posted by 金春安明 at 05:37| Comment(0) | TrackBack(1) | 能と音韻 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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